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神戸地方裁判所 平成3年(ワ)643号 判決 1992年2月28日

原告

仲井孝之

ほか一名

被告

日名保

ほか一名

主文

一  被告らは、原告仲井孝之に対し、各自金二四九万一五九六円及びこれに対する平成二年七月二〇日から右支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告仲井妙子に対し、各自金一六三万一五九六円及びこれに対する平成二年七月二〇日から右支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の各請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

1  被告らは、原告仲井孝之(以下「原告孝之」という。)に対し、各自金二一四二万九二〇〇円及びこれに対する平成二年七月二〇日から右支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは、原告仲井妙子(以下「原告妙子」という。)に対し、各自金二〇一〇万九二〇〇円及びこれに対する平成二年七月二〇日から右支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、自動車と衝突事故を起こして死亡した原動機付自転車の運転者の両親が、民法七〇九条及び自賠法に基づき損害賠償を請求した事件である。

一  (争いのない事実)

1  原告孝之は、亡仲井朝道(昭和四七年五月二四日生)(以下「亡朝道」という。)の父親であり、原告妙子は、亡朝道の母親であるところ、亡朝道は、後記2記載の交通事故によつて、平成二年七月二〇日午前九時五四分西脇市立西脇病院で死亡した。

よつて、原告らは、相続により、亡朝道の法律上の地位を承継した。

2  次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 発生日時 平成二年七月二〇日午前二時四五分ころ

(二) 発生場所 兵庫県小野市垂井町六一八番地先交差点(以下「本件交差点」という。)の国道一七五号線(以下、「本件道路」という。)上

(三) 加害車両 被告日名保(以下「被告日名」という。)運転の普通貨物自動車(以下「被告車」という。)

(四) 被害車両 亡朝道運転の原動機付自転車(以下「朝道原付車」という。)

(五) 事故態様 本件道路を北方向から南方向へ直進中の被告車が、左方道路から本件道路へ右折進行してきた朝道原付車と衝突したもの

3  被告南部運送株式会社(以下「被告会社」という。)は、本件事故当時、被告車を保有し、自己のために運行の用に供していた。

4  亡朝道は、本件事故当時、朝道原付車に二人乗りをし、ヘルメツトを着用していなかつた。

5  原告らは、亡朝道の死亡による損害の填補として、自賠責保険から金二五〇〇万円の支払いを受けた。

二(争点)

被告らは、被告日名の過失内容、損害額を争うほか、亡朝道には一旦停止を怠り、小回りして右折し、法律に違反して原付車に二人乗りし、ヘルメツトを着用していなかつた過失があつたので、過失相殺すべきであると主張する。

第三争点に対する判断

一  被告日名の過失内容及び亡朝道の過失割合

1  証拠(甲六ないし一〇、一四、一五、一七、二一、二九)によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 本件事故現場である本件交差点は、南北に通ずる幅員六メートルの本件道路(国道一七五号線)と、本件道路の南方向に向つて左方の幅員三・九メートルの道路(以下「本件左方道路」という。)とが交差する交通整理の行われていない見通しのよくない交差点であり、本件道路は、平坦なアスフアルト舗装道路で、中央線によつて南行き車線と北行き車線の二車線に区分されており、優先道路となつている。

なお、本件道路は、南方向に向つて一〇〇分の三・四の下り坂道であり、制限速度時速四〇キロメートル、追越しのための右側部分はみ出し禁止の交通規制がある。

(二) 被告日名は、被告車を運転して、本件道路の南行き車線を時速約七〇キロメートルで走行し、本件衝突地点から約六〇・八メートル手前の地点にさしかかつた際、自車前方の右方道路から、原動機付自転車が本件道路へ大回りに左折してくるのを認め、右原動機付自転車が被告車に接触するのではないかと気になり、これに気を取られて前方不注視のまま、右側のサイドミラーで後方を見ながら漫然と前記速度で約二三・六五メートル進行したところ、本件左方道路から本件道路へ右折してくる朝道原付車を約五一メートル前方にはじめて認め、急制動の措置を講ずるとともに、ハンドルを右に切つたが及ばず、本件事故が発生した。

(三) 一方、亡朝道は、本件事故当時、法律に違反して、朝道原付車の後部に伊藤有希を同乗させ、本件左方道路を北進して本件交差点に至り、同交差点を右折するべく、その手前で一旦停止したのち、優先道路である本件道路の右方の安全を確認せずに、本件交差点を右折進行したため、本件道路を直進してきた被告車と衝突した。

なお、亡朝道は、ヘルメツトを着用していなかつたため、脳挫傷により死亡した。

2  なお、原告らは、自動車の制動痕からその制動時の速度を算出するための計算公式(ただし,V=時速 km/st,S=制動痕m,f=摩擦係数)を用いて、本件事故当時における被告車の速度が時速九〇メートルであつた旨を主張する。

しかしながら、自動車工学上の知見によれば、制動痕からの車速の推定については、路面状況、タイヤの状態、速度など関連する要素が非常に多いため相当の注意を必要とするとされているうえ、本件道路は前記認定のとおり下り坂道であるから、右公式はそのまま当てはまらず、減速度について修正が必要となること、前掲各証拠によると、被告車の制動痕の長さを知悉している捜査当局自身、本件事故当時の被告車の速度が時速七〇キロメートルであつたとする被告日名の供述に疑問を抱いていないことが認められるから、被告車の制動痕及び原告ら主張の前記公式のみから、本件事故当時の被告車の速度が時速九〇キロメートルであつたと推認することは困難といわざるを得ない。他に、右原告らの主張を認めるに足る的確な証拠はない。

3  以上前記1で認定の各事実を総合すると、被告日名には、本件交差点を直進するに当り、前方左右を注視し、進路の安全を確認して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、前方の注視不十分のまま、漫然と指定最高速度(時速四〇キロメートル)を三〇キロメートル超過する時速七〇キロメートルで進行したために本件事故を惹起した過失があるから、被告らは連帯して原告らの後記損害を賠償すべき責任がある。

他方、亡朝道にも、本件交差点を右折進行するに当り、優先道路である本件道路の右方の安全確認を怠り、かつ、ヘルメツトを着用しなかつた過失があるといわなければならない。

4  そして、双方の過失を対比すると、亡朝道の過失割合は、三五パーセントと認めるのが相当である。

二  損害額〔請求額 原告孝之につき金三一九八万一〇九一円、原告妙子につき金三〇七八万一〇九一円〕

1  亡朝道の死亡による逸失利益 金二五〇二万〇二九六円

(一) 死亡当時満一八歳の健康な男子(原告仲井孝之)

(二) 算定の基礎となる年収額 金二〇四万九五〇〇円

平成元年賃金センサス第一巻第一表・産業計・企業規摸計・男子労働者・新高卒一八歳から一九歳までの年収額金二〇四万九五〇〇円

ライブニツツ式計算法は、当裁判所の採用するところではない。

(三) 生活費控除割合 五〇パーセント

(四) 採用する新ホフマン係数二四・四一六

(五) 計算式

204万9500(円)×(1-0.5)×24.416=2502万0296(円)

2  亡朝道の死亡による慰謝料 金一〇〇〇万円

本件記録にあらわれた一切の事情を斟酌すると、金一〇〇〇万円が相当である。

3  原告らの相続

亡朝道は右損害賠償請求権(合計金三五〇二万〇二九六円)を有するところ、原告両名は、亡朝道の死亡により、同人から右損害賠償請求権をそれぞれ法定相続分にしたがつて二分の一ずつ相続した(それぞれ金一七五一万〇一四八円)。

4  葬儀費用 金一二〇万円

原告孝之は、亡朝道の葬儀を行ない、その費用として約金二〇〇万円を支出したが(検甲一、原告仲井孝之)、そのうち本件事故と相当因果関係の認められる損害は、金一二〇万円と認めるのが相当である。

5  原告ら固有の慰謝料 各金四〇〇万円

本件記録にあらわれた一切の事情を斟酌すると、各金四〇〇万円が相当である。

三  過失相殺

本件事故の発生には、亡朝道の過失も寄与しており、その過失割合が三五パーセントと認めるべきであることは、前記一、3、4において認定説示したとおりである。

そうすると、亡朝道の右過失は、いわゆる被害者側の過失として、その父母である原告らの本件損害を算定するに当つても、これを斟酌するのが相当である。

したがつて、被告ら各自が原告孝之に対して賠償すべき損害額は金一四七六万一五九六円(円未満切捨て。以下同じ。)となり、被告ら各自が原告妙子に対して賠償すべき損害額は金一三九八万一五九六円となる。

四  損害の填補 金二五〇〇万円

原告らは、右金二五〇〇万円を法定相続分の割合で原告らの前記損害に充当したことが認められるから(弁論の全趣旨)、これを控除すると、被告ら各自が原告孝之に対して賠償すべき損害額は金二二六万一五九六円となり、被告ら各自が原告妙子に対して賠償すべき損害額は金一四八万一五九六円となる。

五  弁護士費用〔請求額 原告孝之につき金一九四万八一〇九円、原告妙子につき金一八二万八一〇九円〕

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、原告孝之につき金二三万円、原告妙子につき金一五万円と認めるのが相当である。

(裁判官 三浦潤)

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